第1章 彼女という女優について
人生、テレビの向う側に関わることなんてそうそうないだろうし、まさか成人後も続けはしなかろうと、軽い気持ちで頷いた。
家族にも、「高校の部活替わり」として、短期間やるだけだと伝えた。そこまで反対はされなかった。まさか私が高校を卒業しても仕事を続けるだなんて、このときは誰も想像していなかった。それなりに身内の欲目を発揮することもあれど、基本的に身の程をわきまえた家なのだ、うちは。
顔だけで言うならば、弟の方がよっぽど整っていた。
勉強だとか運動だとか、私が現実的な才能を持っているとしたら、弟は綺麗な顔だとか絵や音楽のセンスだとか、そういう「腹を満たしはしないが必要なもの」とされる分野の才能に恵まれていた。
私は天才ではないけれど優秀だという自負があった。馬鹿ではないかもしれないけれど優れてはいない地頭を自覚していたし、人よりちょっと速い程度の足しか持っていなかった。それを、父譲りの容量の良さでうまく使いこなし、「名門に通う勉強でも運動でもそこそこ優秀な女生徒」を実現していただけだった。
天才というのであればそれは弟だった。
小さなころから、勉強にあまり興味がなくて、足も私よりずっと遅かったけれど、誰より綺麗な絵を描く子供だった。
容姿も私の上位互換といった風で、似ているけれど弟の方が可愛いとよく言われたものだ。
これでどちらかに何かが欠けていたら仲が悪かったのかもしれないが、私と弟はそれぞれに相手より自分の方が出来ると自尊心を満たせる分野があったので、拗れることなく仲良しな双子でいられた。
まぁそもそも弟は芸術人にありがちなあまり嫉妬しない質だったので、私が一方的に嫌って散々な態度をとり結果的に弟も私にムカついて嫌いになるというルートしか思い浮かばないが。
勉強と運動ができて本当に良かった。