第3章 【東京/四男/not腐/舞台共演】
泣いている幼子を慰めるように額へ接吻し、まだ喉に引っ掛かるように泣きじゃくっているワーニャ伯父さんに、優しく優しく、語り掛けた。
自分だって不安に思っているくせに、死ぬまでは辛い思いをするのだと肯定しているくせに、それでも終わりの先の安寧を信じて、大好きな伯父のために言葉を紡ぐ。
声は震える。泣く一歩手前のような、渾身の、作り上げた、引き絞った掠れ声。
それでも、強い決意とこれ以上にない愛情をこめて、会場中に響くように。
「でも、もう少しよ、ワーニャ伯父さん、もう暫くの辛抱よ。・・・やがて、息がつけるんだわ」
合わせていた額を離し、伯父の頭をかき抱いて、「ソーニャ」は涙声で叫んだ。
堪えきれない感情が発露したように、酷い声だった。
「ほっと息がつけるんだわ!」
夜番の拍子木の音。
テレーギンが忍び音に弾いている。夫人は、本の余白に何やら書きこんでいる。乳母は靴下を編んでいる。
人は大切なことを二度言うらしい。
だからこの作品で、ソーニャも最後に同じことを二回言う。
一度目は抑えきれない感情が、二度目は冷静に立ち返った理性が言わせるのだ。
それを踏まえて、一度目よりも自分に言い聞かせるように、諦めるように、噛みしめるように台詞を紡いだ。
伯父の頭をかき抱いたまま、どこか遠くを見詰めながら、一度唾を呑み込んでカラカラだった喉を潤して。
「あたしたち、ほっと息がつけるんだわ」
そして、物語は終わりを迎える。