第3章 【東京/四男/not腐/舞台共演】
領地経営のために身を粉にして働いてきた伯父さん。尊敬していた男が実はくだらない男だったのではないかと気付き、苦悩した伯父さん。
美しい人に恋をして、何度も何度も突き放されてしまう伯父さん。
そして最後には、男が「領地を売り払い、別荘を買ってはどうか」と提案してきたことに、心の底から激怒した。
一度も自分たちの労働を労ったことのない奴が、長い間苦労してきた己と家族を蔑ろにしたのだと糾弾した。
「そして現在の不仕合せな暮しを、なつかしく、ほほえましく振返って、私たち――ほっと息がつけるんだわ」
最後には拳銃を取り出して男を殺そうとするも、弾はひとつも当たらない。
絶望した伯父さんは、死んでしまいたいと思うけれど、皆に止められてそれも叶わない。
「わたし、ほんとにそう思うの、伯父さん。心の底から、燃えるように、焼けつくように、私そう思うの」
そこで私は、椅子から立つと伯父さんの前に膝をついて、頭を相手の両手に預けた。
「ほっと息がつけるんだわ!」
辛いのはワーニャ伯父さんだけではない。私だって、「ソーニャ」だって、伯父さんが恋を失う横で、恋を失った。
伯父さんの心を奪った美しい義理の母は、ソーニャの恋しい人も虜にしていた。
同じ部屋にいてギターの調整をしていた「テレーギン」がそっと弦を震わせる。
彼もそうだ。落ちぶれた地主のテレーギン。彼だって幸せでは決してない。
ソーニャの祖母でありワーニャの母である夫人は黙々と本に何かを書き込んでいる。
年老いたソーニャの乳母は肘掛椅子に腰をおろして靴下を編んでいる。
男とその美しい妻がやってくる前の、この屋敷の光景がここにはあった。
そしてこれからもずっと、死ぬまで続いていくのだ。
男と和解した伯父さんは、妻と共にこの田舎を離れると告げた彼に対して変わらぬ仕送りを約束した。
そして今は、二人が出立し、客人も帰り、今まで通りの人々しかこの屋敷にはいなかった。
生活は変わらない。伯父さんも、ソーニャもこれまで通り、苦労して苦労してこの領地を経営していくのだ。