• テキストサイズ

俺得設定女優主がBLを眺める話【気象系BL?】

第3章 【東京/四男/not腐/舞台共演】


 どうも、(一応)女優です。
 芸名葵子、二十代半ばらへん。今日も元気です。

 本日は待ちに待った舞台の初日です。

「ソーニャ、わたしはつらい。わたしのこのつらさがわかってくれたらなあ!」

 私の髪を撫でながらそう囁いた「伯父」に、「ソーニャ」は書き物の手を止めて答えた。
 同じテーブルの、隣に腰かけている可哀想な男に語り掛ける。

「でも、仕方がないわ、生きていかなければ!」

 さぁ、ここからが正念場だ。ここから最後まで、私の長台詞で舞台は占められる。
 神経を研ぎ澄まし、会場に満ちる空気、共演者の吐息、己の一挙手一投足にまで集中しながら唇を開いた。

 頭を撫でていた掌が頬へと移ったのを機に、その掌に自分から擦り寄り、両手でやさしく包む。

「ね、ワーニャ伯父さん、生きていきましょうよ。長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。運命がわたしたちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。今のうちも、やがて年をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね」

 「私」の父であり、伯父さんの義理の弟にあたる男は、美しい後妻を連れてこの田舎へやってきた。
 伯父さんはこの男をひどく尊敬していて、妹である前妻、私の母が亡くなった後も長く援助していた。

「そして、やがてその時が来たら、素直に死んで行きましょうね。あの世へ行ったら、どんなに私たちが苦しかったか、どんなに涙を流したか、どんなにつらい一生を送って来たか、それを残らず申上げましょうね。すると神さまは、まあ気の毒に、と思ってくださる」

 しかし男は、都会で働いていた教授という己を変えようとはせず、私たちの生活をどんどん歪にしていった。
 伯父さんは早々に男に失望して、悪態をつくようになった。さらに不幸だったのは、彼が男の美しき後妻に恋をしてしまったことだった。

「その時こそ伯父さん、ねえ伯父さん、あなたにも私にも、明るい、すばらしい、なんとも言えない生活がひらけて、まあ嬉しい!と、思わず声をあげるのよ」

/ 23ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp