第2章 【気象/山/腐/番組共演】
仕事場では誰にでも挨拶することを心掛けている(なにせ私の市場価値が低いのでそれぐらいしかできない)ので大きく素早く返事しながら席を立つ。
呼びに来てくれたスタッフさんと軽く言葉を交わしながらスタジオへと足を動かしつつも、憂鬱さは拭えない。
そして。
「ちょ、大野さんってば!」
「なんだよ翔ちゃん早く来いよ」
連れたって赤い扉から出てきたトップアイドルの、特に年長二人組に、思わず目が点になった。
カメラには入らず待機しながらオープニングトークを交わす二人を見詰める。
「いい加減俺の部屋から出てくるの改めてくださいよ兄さん」
「だって前回一緒に帰ったんだから一緒に出て来ないとつながんねぇだろ?」
「ちゅうじつぅ!設定に忠実!とても日焼けして怒られた人の言葉とは思えない!」
「あれは反省したぁ・・・」
参考までに今までのこのコーナーの映像は少し見せてもらったが、こんな感じだっただろうか。
こんな感じだった気もする。
(ゆーあーえーぶりぃーてぃーんぐー・・・・・・)
(ほしーいーのーはーあーなーたぁああー・・・・・・)
ハッ、なにやら空耳が。
すげぇイチャイチャしてんなぁ、そういや仲良しで有名なグループだっけ・・・。
私と弟も普段あんな感じで、それで友達に「お前ら双子距離ちけぇよな」と言われるので、彼らも世間一般的に見て大分パーソナルスペースが狭い方なんじゃないだろうか。
メンバー限定かもしれないけど。
大きめのトーク番組とかで大まかに共演はしたことはあるけど、ドラマとかでご一緒したことはないし、ほんとにきちんと絡むのは初だから新鮮だ。
スタッフに合図されたので玄関の方に回り、ピンポンの準備をする。
話の途中だけど遮っていいのかなぁと思うけど、あのイチャイチャがチャイムに遮られるのは仕様らしい。
仕様になるほどイチャイチャしてんのか。アイドル怖いな。
一度目を閉じて、呼吸を落ち着ける。
よし、行ける。
あくまでも礼儀正しく、けれどもお堅すぎずバラエティに相応しいフラットさで!
私は強い子!
覚悟を決めてチャイムを押せば、スタジオにピーンポーンとスタンダードな音。
おお、これこれ、とテレビで見ていた通りの音に少し興奮した。
「あ、来た」
「来た来たぁ」