第2章 【気象/山/腐/番組共演】
のんびりとした足音と、のんびりした声が近づいてくる。
しかしほんとよく出来たセットだな・・・近くで見るとなおのこと。
これちゃんと普通の家でも使われてる玄関扉なんじゃない?
すごいなぁ。
そんな風にきょろきょろとしていると、ぴっという機械音と、「はい?」という応答が聞こえたので、慌てて扉横のカメラに視線を合わせ口を開く。
「あ、こんばんは、葵子です」
「すげぇきょろきょろしてんじゃん」
「んふふ」
おかしそうに返されて、「あ、そこから映ってました?」と咄嗟におどける。
よし、この調子でいけばどうにかなりそうだ。幸先はいい。
がちゃりと扉が開錠されて、本日二回目の顔合わせ。
なるほど弟が言っていた通り、二人は先ほど楽屋で会った時よりも「らしい」顔をしていた。
なるほど、演者か。
さすがアイドル。テレビの実体を持つ虚構で偶像。
堂に入っている。
軽く会釈をしながら「お邪魔します」と声をかけて玄関に入る。
おお・・・玄関もそれっぽい・・・。
傘立てに全身鏡に観葉植物まである・・・スタッフのこだわりすごい・・・。
プロのお仕事ですわ。
靴を揃えてから部屋に上がらせてもらえば、なるほど、玄関と同じかそれ以上のクオリティの空間が広がっていた。
入ったときから見ていたが、実際セットに足を踏み入れるとその仕事の丁寧さがわかる。スタッフすごい。
ドラマの撮影現場ではまず見ない人数の番組観覧のお客さんを気にしないようにしつつセットに視線を巡らせる。
すごい、女性しかいない・・・。
ていうかほんと観客多いな・・・バラエティって大抵そうだけどそれにしても多いな・・・。
緊張がぶり返してきたけど鍛えぬいたポーカーフェイスで肩の力が抜けている風を装う。
バラエティのレギュラーさんとかほんとすごいな・・・。
「どこでも好きなところに座ってください」
促され、面白い人はここでボケてたなぁ、でも私には無理だなぁと潔く諦め、「じゃあここにしますね」とゲストの定位置、真ん中のソファに腰かける。
が、お客さんとカメラが同じ目線の高さにいることに違和感を禁じ得ず、収録中ずっとここは嫌かなと思い直した。
「すみませんやっぱりこっちで。真ん中って落ち着かないですね」