第1章 最後の時
瓦礫の中。仰向けで空を見上げていたサラは、額を流れる生温かい『何か』を右手で拭った。そのまま手を目前に移動させ、それを確認する。
想像通りだ……右手は真紅に染まり、その存在を主張する。
その手を天に差し出せば、まだ高い位置にある日の光に反射し艶めかしく輝いた。
「綺麗……」
妖美。という言葉を聞いたことがある。
人を惑わすような、あやしい美しさを差すのだと。
それはどんな物だろう?と考えたものだ。
その答えが今、手中にある。
1つの疑問が解決され、サラは僅かに口角を上げた。
次は身体を起こそうと、その手を瓦礫へ戻す。
手を着いた瞬間、ビチャッと嫌な水音が耳に飛び込んできた。
一体何があるのかと視線をそちらに移せば、こと切れた仲間が真横に寝そべり、こちらを凝視していた。
至近距離で視線が交わる……
下半身を失ったその断面から、おびただしい量の血液が内容物と共に流れ出している。
サラの右手は先程のそれとは比較にならない程、綺麗に染め上げられた。
サラは自身の左手に血液が付着していない事を確認し、上体を起こした。
今はもう、光を感じない仲間の瞳に左手を掛け。そっと瞼を下ろす。
哀れだとか、不幸だとか。そんな事は思わない。
調査兵を志望した時点で、こうなる事は誰だって覚悟しているのだから。
仲間を一瞥すると、サラは立ち上がろうと全身に力を入れた。
「?」
その時気づいた。
左足が瓦礫に潰され、身動きが取れない事を。