第22章 ほたる。
俯いていた菅原先輩が顔を上げると、頬に涙の後がすでにできていて、まだ乾くことなく流れていた。
「あっ…、」
その表情に何も言えなかった。
こんなに、私を見てくれていたんだと。
「夏蓮のことが好きだから、わかるんだよ。夏蓮が好きなのは、俺じゃないべ?」
菅原先輩からあふれ出る、止まることのない涙を見て、私の脳裏に浮かんだのは、菅原先輩との思い出と、その陰に隠れた私の想いだった。
もらい泣き…も少しあるかもしれないけど、私も涙があふれ出てきてしまった。
私は、泣ける立場なんかじゃない。
私を見てくれて、私よりも私のことを理解してくれるこの暖かい人を、
私は傷つけてしまったんだ。
「菅原先輩っ、ごめんなさい…!」
「ちょっとだけ、ごめんな。」
そういって私を抱きしめた菅原先輩の肩に額を乗せて、二人でしばらく泣いていた。
何分経ったのかはわからない。
菅原先輩がくしゃみをして、辺りが薄暗くなっていることに気づいた。
みんながいた方を向くと、誰もいなかった。
きっと、澤村先輩や旭先輩あたりが気を使ってくれたんだろう。
まだ赤みが残った目を少しでももとに戻すために川の水で顔を洗い、
「これからよろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。菅原先輩、ありがとうございました。」
向き合ってそう告げて、何事もなかったかのように家へと戻っていった。