第21章 気持ち。
蛍からのあり得ない発言を聞き、自分のタオルを指しだそうとしたとき、
それよりも先に仁花ちゃんがタオルを蛍へとぐっと差し出した。
別に悪いことじゃないのに、
胸が痛むのはなんでだろう。
蛍のことを名前で呼んでるのは私だけだったのに、
仁花ちゃんはいつの間に“蛍くん”って呼ぶようになったの…?
蛍は私に声をかけたのに、
なんでそんなに必死にタオルを差し出してるの?
「じゃぁ、俺が夏蓮の借りるべ。夏蓮は俺の貸してやるからさ。」
仁花ちゃんに何も言えずに立ち尽くしていると、
私の手に残っていた薄いピンクタオルがすっと抜け、
代わりに水色のタオルが置かれた。
「菅原…先輩…。」
驚いて見上げると、菅原先輩は勝ち誇ったような、満足そうな笑顔で蛍を見上げていた。
そして蛍は何も言わずに仁花ちゃんのタオルを手に取って去っていった。
私が勝手に思っているだけかもしれないけれど、仁花ちゃんと気まずい気持ちのまま、その日の部活を過ごした。