第20章 急接近
独裁者。
まさか及川さんからもこの言葉が出てくるとは思わなかった。
私も言った言葉。
これが及川さんからのほうが、私が言った時よりも重みがある。
さすが先輩だと思う。そして、これまでセッターとして努力を惜しまなかった及川さんだからこそ、心に響く言葉になったんだろう。
「お前は考えたの?チビちゃんが欲しいトスに100%応えているか。応えられる努力をしたのか。勘違いするな。攻撃の主導権を持っているのはお前じゃなくチビちゃんだ。」
及川さんは、伝えるべきことを伝えて、猛くんとその場を去っていった。
…私へのウィンクも忘れずにおいて行ってくれました…。
「とりあえず…、場所変えようか。」
「…あぁ。」
考え込んでいる影山くんに声をかけて、近場の公園に入った。
「あのときお前が言いたかったことは、今日の及川さんに言われたことでわかった。」
「ごめん…。ちょっと混乱させたよね。」
「いや、その…、はっきり言ってくれて嬉しかった。」
うつむいて話す影山くんに、私はなんて言っていいのかわからなくて、
影山くんの言葉に応えることで精いっぱいだった。
「っ!?」
数分間の沈黙が流れると、急に影山くんに抱きしめられる私。
…え?影山くんってこんなことするキャラだったっけ!?
「あのっ、影山…くん?」
「あっ…えっと、わ、悪ぃ…。」
影山くん自身も、自分のしたことに驚いていたのか、顔を真っ赤にして私を離した。
「おかげで、ちょっと頑張れそうだ…。まだ、何をしたらいいのかわかんねぇけど。やれることはやってみる。じゃぁな。」
「あ…、うん。頑張ってね!」
「あぁ。」
急に真剣な顔つきに戻る影山くん。
影山くんなら大丈夫。
きっと、なんとかしようとしてくれる。
そう確信が持てた私は、影山くんに別れを告げて、帰宅した。
…菅原先輩以外の男の子に、初めて…、抱きしめられた。
そんなとき、…まさに同時刻に、起きていたことを私は知らない。