第2章 苦心惨憺【クシンサンタン】
それから三日程して「女が目覚めた」と家康から報告を受けた俺は、逸る気持ちそのままに早足で女の元へ向かった。
そこには既に、また全員が揃って居る。
褥の中で所在無げに座る女を見据え
「何か話したか?」
そう問うて見ると、何故か皆一様に困惑した視線を俺に向けた。
「………一体、何事だ。」
「それがその………」
一際困った様子の秀吉に促され、俺は女の前へ屈み込む。
「貴様、名は何と言う?」
すると女は、苦し気に口をぱくぱくさせた。
それだけだ。
全く声は出ていない。
まるで陸に釣り上げられた魚の様だ。
「………喋れないのか?」
「どうやらその様です。」
女から色々聞き出せばその後の処遇にも目処が付くと簡単に考えていたが、まさかこんな事になろうとは………。
「そうだ!
文字だ。
文字を書かせて見れば良いじゃねえか。」
「そうですね!
では早速………」
政宗の真っ当な提案に、三成がいそいそと筆と紙を用意する。
女の前に文机を置き、俺はその文机の上に用意された紙を指先でとんとんと叩きながら言った。
「ここに貴様の名と……
後、何か言いたい事があるのならば遠慮無く書いてみよ。」