第11章 松栢之操【ショウハクーノーミサオ】
『何もかも…お前の思い通りになると思うなよ。
我が国が滅んでも、第二、第三の俺達が現れる。
その時にはまた、お前のその手を大勢の血で穢すが良い!
織田信長………
平穏など、お前の生涯に訪れる事は無いのだ!!』
そう叫んだ男は燃える様な目で、真っ直ぐに俺を睨み上げている。
血反吐を吐く様な言葉で有りながら、その端々には明白に俺を蔑み嘲笑う色が滲んでいた。
謀反を起こした小国の征圧に向かった俺は、三日振りに安土へ帰って来た。
大した相手では無い。
態々俺が出張らなくても秀吉と政宗に任せておけば充分であったのだ。
だが俺は、その小国の大名の顔が見たかった。
国を潰される覚悟を持ってしても、俺に刃向かう男の顔を……。
あっという間に捕縛され、俺の足元に引き摺り出されて『お前の生涯に平穏など訪れる事は無い』と言い切った男。
秀吉が怒りに震える手で刀を抜いたが、俺はそれを止めた。
「言いたい事はそれだけか?」
無様な姿を見下ろし、冷ややかにそう問えば
「………これが…………第六天魔王…か。」
男は一言だけ呟いて、がっくりと項垂れる。
そして……二度と顔を上げる事は無かった。
その後、事後処理の全てを秀吉と政宗に任せた俺は、只管に馬を駆け安土に向かったのだ。
今直ぐに会いたい……その抑え切れない想いを抱えて……。