第9章 屋烏之愛【オクウーノーアイ】
翌朝、朝餉の時刻になっても全く起床する気配の無い俺に焦れて、秀吉が天主にやって来た。
「信長様、好い加減お目覚めになっては如何ですか?」
僅かに怒りを孕んだ物言いに依って、俺は反射的に目を覚ます。
「分かっている……。
直ぐに起きるわ。」
傍らで膝を正して座る秀吉に答えつつ、ふと己の有り様を省みれば……
俺とは布団も掛けず、素っ裸のまま抱き合って眠っていた。
「ああ………」
流石にこれは不味いと思い大きく息を吐いたが、秀吉は何故かにっこりと微笑んで頭を下げる。
「昨夜はおするするとお済みの様で何よりです。」
態々、京言葉を使うなど嫌味な奴だ。
しかし俺との明白な情事痕……いや、それ以上にの傷跡に塗れた裸体を見ても顔色一つ変えない。
度々、小言好きの好々爺の様ではあるが、やはり俺と一緒に最期まで駆ける覚悟を持っている男は違う。
秀吉の中で、がこの先も俺の隣に居る事を認められたのだと思うと顔が綻んだ。
「さ……朝餉の時刻です。
早々にご準備を。」
そう言って立ち上がった秀吉は、突然俺をじっと見据える。
「何だ?」
「それから……
朝餉の前にをちゃんと風呂に入れてやって下さい。
流石にその形は……」
ここで漸く秀吉が気不味そうに頬を染めた。
言われての状態を見てみれば、確かに俺の唾液や白濁に塗れたままぐっすりと気持ち良さそうに眠って居る。
「何だ?
妬いておるのか……秀吉?」
くつくつと喉を鳴らしながらからかってやると
「妬いてなどおりませんっ!
俺は只……妹を嫁に出した様な気持ちでっ………
くっ……失礼しますっ!」
泣き出しそうな顔をして天主を飛び出して行く。
唖然とその後ろ姿を見送った後、俺は城中に響き渡る程の大声で笑った。