第7章 熱願冷諦【ネツガンレイテイ】
「では貴様はを連れ帰る為に此処まで来たと言う事か。」
「うん。
まあ、そーなるかなー。」
が捕らわれていた状況を語った時に見せた抑え切れない怒りに震えて仕舞う表情も、自らを蔑み浮かべた嘲笑も…今は消え失せ、男はまた飄々とした態度に戻って居た。
「は……以前のでは無いぞ。
恐らく今のは『十参號』であった時の事を覚えてはおらぬ。
それを連れ帰った所で…」
まるで大切な物を手放したく無いと駄々を捏る子供ではないか……俺は。
「別に…いーんじゃねーの?」
俺の情けない感情を見通した様に男の声が響く。
「屍でも構わないって仰ってるんだ。
十参號がどんな状態であっても、
信玄様は受け入れてくれるだろーよ。」
そう…は元々あの甲斐の虎、武田信玄の物であったのだ。
それを俺が拾っただけの事。
此処に留め置くのはの帰る場所が見付かるまで…と、自ら口にした筈だ。
やはりを甲斐へ戻す…というのが筋であろうな。
長く続いた俺と男の遣り取りにも目を覚ます事無く、俺の隣ですうすうと眠り続けるを見下ろす。
その頬に掛かる髪を除けながら指先で擽ると、はくすんと鼻を鳴らし一層俺に身を寄せた。