第6章 独弦哀歌【ドクゲンアイカ】
一部始終……最初から最後まで全部見てたよ、俺は。
殴られて蹴られて……この先は…ちょっと言葉にならねー。
あんた、十参號の身体…見たか?
そっか、見てねえのか……。
あんた…意外と善い奴なんだな。
脳味噌のどこをどう使って考えたらそんな惨い行為が思い付くんだ…って位だ。
俺は『頼むから早く殺してやってくれ』って何度も願ったよ。
それでも十参號は呻き声一つ上げなかったんだ。
男の俺だってそんな自信無いぜ。
だけど、たった一度……
たった一度だけ、朦朧とする意識の中で信玄様の名を呟いちまった。
其奴らにすりゃその一言で充分だ。
これでやっと十参號を殺してくれる……そう思ったのに…
其奴らは十参號の喉を潰し、後は只管……玩具にしやがった。
……………………………………………………………。
あ…ああ、すまねー。
うん、俺は大丈夫だ。
結局、俺達はそれを見届けて甲斐に戻ったよ。
だってもう十参號は死んだも同然だろ?
信玄様に報告して、それで俺達の仕事は終い。
なのに信玄様の口から出た言葉は……『十参號を連れ帰れ』だった。
『生きていようが、屍だろうが関係無い。
十参號の身体を俺の前に持って来い。』
こう仰って下さったんだ。
……お優しい方だよ、信玄様は。
俺達、家畜相手にも御心を砕いて下さる。
あー…そうなりゃ俺達は急いで向かうよな。
どーせなら生きた十参號を取り戻してえ。
けど到着してみたら、十参號は自力で逃げ出した後だった。
それからは探して探して探して………
その結果、安土城の天主にまで潜り込まなきゃいけねー羽目になったって訳だ。