第1章 邂逅遭遇【カイコウソウグウ】
女を拾った。
下らない小競り合い程度の戦を終えた帰り道。
安土に向かう夜道の山中で、俺の馬の前に踞る影が見えた。
最初は獣かと思ったが、それは眉を顰める程に汚れた女であった。
髪にも身体にも泥が膠着き、身に付けている着物は襤褸同然だ。
恐らく長い間この辺りを彷徨っていたのだろう。
俺は馬から降りるとその女に歩み寄る。
「信長様……迂闊に近付いてはっ……」
同行していた秀吉が慌てて止めに入ったが、俺は気にする事無く踞る女の顎に手を掛けて上向かせ………
そして息を飲んだ。
その女の顔は無惨な有り様であった。
左の瞼は開けない程に腫れ上がり、鼻出血は拭う間も無かったのか……そのまま乾いて固まり呼吸もしづらい様だ。
人間の手による暴行である事は明らかだ。
そんな状態であるにも関わらず俺に顔を覗き込まれている女は怯える様子も見せぬまま、きょとんと無垢な視線を漂わせていた。
「この女を連れ帰る。」
「…………は?」
驚いた秀吉が間抜けな声を上げたが、俺は女を抱え上げ自らの馬に乗せる。
「安土へ戻り次第、真っ先に家康に手当てをさせろ。」
「分かりました。」
俺がこうなれば何を言った所で無駄な事は秀吉も良く理解している。
その後は小言を言う事も無く、俺と一緒に急ぎ安土へ向かって馬を駆け出した。