第4章 天真流露【テンシンリュウロ】
「いや……でも…しかし…」
珍しく俺の言う事を一度で受け入れない秀吉。
何か言いた気なその表情を見て、俺にはぴんと来るものがあった。
「秀吉……貴様、俺がを手籠めにするとでも思っておるのか?」
「いえっ…まさか!
その様な事は決して……」
嘘を吐け。
その通りだと貴様の顔に書いてあるわ。
全く……秀吉の兄貴気質もとことん重症であるな。
「案ずるな、秀吉。
俺がを穢すなど有り得ん。」
愉悦を含みながらも真摯に語る俺を見て、秀吉の目にいつも通りの落ち着きが戻って来る。
「……の事、宜しくお願い致します。」
「ああ、任せておけ。」
「では……お休みなさいませ。」
深々と一つ頭を下げて秀吉は天主を出て行った。
ふと傍らを見下げてみれば、既には気持ち良さそうにくうくうと熟睡している。
空は今だ荒れ狂い、雷鳴も静まる気配は無い。
それなのに雷が怖いと狼狽える者が、俺の隣ではこれ程迄に安心するものなのか?
まだまだ俺も第六天魔王と呼ばれるには相応しく無いのかもしれんな……。
だが無条件で只管に俺を慕う存在は、擽ったい程に心地が好いから不思議なものだ。
そして俺もと同じ様に褥に潜り込むと、片腕でその小さな身体を抱き寄せた。
温かくて柔らかい……そしてしっとりとした抱き心地。
まるで毛並みの良い仔猫を抱いて居る様だ。
その肌から僅かに漂う甘美な香りに鼻腔を擽られれば、何故か欠伸が止まらない。
「どうやら今宵は久方振りに良い夢が見られそうだ。」
俺はそう一人ごちてからの髪に顔を埋め、ゆっくりと瞼を閉じた。