第3章 意路不倒【イロフトウ】
「ああ……信長様でしたか。」
光秀は悪びれた様子も無く振り返ると、そのままの側を離れ俺に近付いて来る。
そして俺の耳元に顔を寄せ、神妙な面持ちで囁いた。
「は喉を潰されている様です。」
「………何?」
俺は睨み付ける様に視線だけを光秀へ向ける。
「恐らくそういった類の薬を飲まされたのでしょう。
声帯を焼いて仕舞う様な……劇薬です。」
「貴様はの喉を見ていたのか?」
「はい。
私の有りと凡ゆる手管を駆使しても
依然としての素性が全く見えて来ない。
これは一筋縄では行かない何かが有るのでは……と。
が喋れない事も無関係では無いと思ったもので。」
確かに光秀の言う通りだ。
光秀の情報力を持ってすれば高が女一人の素性等、容易に判明させるであろう。
それが出来ないと言うのはやはり何処か可笑しい。
それにしても、喉が潰されているとは……。
その理由に考えを巡らせてみる。
やはり………に語られては困る何かが在る者が存在するのだろうな。
しかしそうであるならを殺せば良いだけではないか?
そうはせず、喉を潰し、死なせない程度に凌辱し暴行する……
考えれば考える程、人間の所業とは思えぬ。
を取り巻いていた状況は、俺達が思っているよりも一層深い闇を纏って居るのかも知れない。
そんな穏やかで無い会話を交わす俺と光秀を他所に、当のは腰を下ろしたまま窓辺で戯れる二羽の子雀を愛おし気に見つめて微笑んで居た。