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君と紡ぐ100のお題

第5章 purple






次の日の朝、
出勤途中に声をかけられた。



「ちゃん」


振り向くと遠くの方から軽快に走るその人。



「…亮介さん、おはようございます」

「…はあ、おはよ、やば、歳だわ」

とネクタイを少し緩めるような仕草。



「もう35ですもんね」

「言うなよ、まだ35だっつうの」

「へえ」

「興味持とう!もっと俺に興味持って!」

「いえ、なんかある程度知ってるので
 大丈夫です」

「相変わらず、だな」と言って笑う亮介さんの顔も相変わらず優しかった。

「ちゃんだけだよ、
 そんな冷たいの」


出た、相変わらずの言葉。



「でしょうね、昨日は楽しめました?」

「気になる?」


とコロコロ表情を変える亮介さんに
不覚にもドキッとしてしまった。



「なりません」

「言うと思った」と笑ったあと、


「だから好きなんだよね」
と冗談っぽく言われた。





この人が私に構うのは
ただの珍しさ。


私がこうやって返すのをわかってて
わざとするその顔、その言葉、

もう1年前の私とは違う。


亮介さん、私ちゃんとわかってるんです。
成長してるんです。


もう戻らないって決めたんです。





今の私には
戻らない理由があるんです。




「そういうこと言ってると
 逃げられますよ、奥さんに」


冗談っぽく、今の私にしては
頑張った方だったのに。




私の方を向いて少し間をあけてから

「うん、大丈夫、逃げられたから」と言う。



「ちゃんの言う通りだね」と
微笑んだその人はどこか弱々しくて
初めてその笑顔が嘘だと思った。




1年間というその時間は人を変えれば

環境をも変えてしまうもの。




環境が変わった1年後は
1年前に想像していたものとは違う
明るい未来がそこにあるのだろうか。







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