第5章 purple
「…松本くん」
目の前にある彼の腕に触れる。
「…確かに、私にとって亮介さんは
特別な人だし、今でも思い出す。
でもね、私、
亮介さんと離れたから今楽しくて
幸せだと、思う」
だってね、
だって
「松本くんがいてくれるから。
こうやって後から抱き締めてくれるから」
わかってくれるかな。
私、亮介さんのこと
忘れてないけど
そういうんじゃないんだよ。
忘れられないけど
そういうんじゃ、ないの。
「……、さん」
松本くんが私から離れたので、
後ろを向いて彼を見た。
「…もしかして、さん、
亮介さんより、俺の方が」
「…ふふ、亮介さんなんて比べ物にならないよ」
「まじかよ」
「まじだよ、…ごめんね、遅くなって」
「そんなん…」
そんなの、いいよ
と今度は真正面から抱き締めてくれる。