第5章 purple
雑誌を読んでいたはずの彼が
それをパタリと閉じ、おもむろに立つ。
すると、床に座る私の後ろに回り込んで
もたれ掛かっていたソファーに腰かけた。
「……松本くん、これじゃあ顔見えないね」
同じ線上に座る私と松本くん。
視線は同じ方向に向くに決まってる。
すると、後から手が伸び
私の前で交差した。
「………、あ、のう」
「見せたくねんだよ、今の顔」
「え、なんで」
松本くんの耳が私の耳にあたる。
私の方に顔を向けず、視線は外で
フワフワの髪の毛が当たってくすぐったい。
「…亮介、さん?だっけ、」
「え」
気づいてないと思ってる?と松本くんが
耳元で笑った。
「わかってるよ、まだ勝てないこと。」
「………」
「すぐ振り向いてくれるとも
思ってなかったし
それでも頑張る、って言ったのは俺だし
…ただやっぱり
さんに、そんな顔させるのが
俺じゃないって実感すると…
やっぱ悔しいから、」
松本くんの腕に力が入って
私の肩に顔を埋めると
私たちの間に少しの距離もなくなる。
私が何も言えずにいると、
また笑ってくれた。
「でも大丈夫、
こうすればダサい顔見られないし
さんにくっつけるし」
松本くんのこういうところが
私は好きだ。