第3章 gleen
ライブ会場に着き、チケットを見せると
一番前の席に案内された。
いつもはライブが始まるまで
じっと座って待っているけれど
どうしてもキョロキョロと
辺りを見回してしまう。
櫻井さんの彼女さん…
セミロングの…可愛い…
だ、ダメだ。
皆セミロングだし皆可愛いじゃない。
やっぱりこの中から雅紀くんの
あの情報で見つけられるわけはない、
と諦めた時
自分の席に戻るはずだったんだろう、
女性が私の荷物に躓いた。
「す、すみません」
こけた自分の膝よりも、
私の荷物を抑え、顔を上げて私に謝る。
「あ、いえ!大丈夫、ですか…?」
まだうずくまっている彼女に
つい腰を上げて手を差しのばす。
「あはは」と自分に呆れたかのように
笑うその人が私の手をとってくれた。
その笑った顔は柔らかくて可愛い。
その上、サラサラ
「…セミ、ロング…」
「…え?」
「あ!いえ!な、なんでも…」
これじゃあまるで変質者。
その彼女「ふふ」と笑い
そのまま私の隣に腰を下ろす。
「…お一人、ですか?」
と聞かれた。
「…あ、はい。緊張、します」
「私も、です。久しぶりで」
「私もです!高校卒業、以来で」
嵐のライブは卒業式の日に
雅紀くんからもらったチケットで
行ったっきり。
あれから一度も行けなかった。
「…どなたの、ファンなんですか?」
「あ、えっと、そうだな」
雅紀くん、と呼ぶ勇気はなくて。
「…相葉くん、です」
「私も相葉くん、好きです」
と優しく笑ってくれた。
ライトが落ち、
きゃあ!と女の子達の歓声が上がると
「始まりますね」と言って
彼女はステージの方を見た。
久しぶりに見る、
アイドルの雅紀くん。
私、大丈夫だろうか。