第3章 gleen
はあ、と雅紀くんに気付かれないように
小さなため息をつくと
「あ!」と何かを思い出したように
読みかけの雑誌を閉じる。
「翔ちゃんの彼女も来るって言ってたよ」
さらっと言ったセリフに耳を疑った。
「え、櫻井さん!?」
櫻井翔さん。
もちろん櫻井さんと対面なんてない、
ましてやその方の彼女さん。
「雅紀くん私どうしたら」
「あはは!だからなんもしなくていーよ!」
「な、名前は?」
「あ、れ?…なんつったっけ?
会ったことあんだけどな」
「え!会ったことあるの!?」
「うん、まだ2人が付き合ってない時ね、
たまたま会って、嵐皆で飯食った」
「…その、どんな子だった?外見、とか」
私は何故か櫻井さんの彼女さんに興味津々。
たぶんそれは
同じ仲間だと、
勝手に、仲良くなれたらと、
そう思ったから。
「えっとねえ、セミロングの可愛い子で
…とにかく、いい子だった!」
「…ま、雅紀くん、嵐のライブでその情報は
0に等しいね」
「えー、そうかなぁ?」と笑って
「俺もちゃんと紹介したいなあ、そろそろ」
と私の傍に来て右肩に顔を埋める。
「…そういう話、するの?嵐って」
「や、全くしない。
彼女いるとかいないとかも知らないし
雑誌でどの子がタイプとかいう
ゲスな遊びはするけど」
「普通の男子だ」
「そうだよ、普通のおっさんだよもう」
と笑い、私の服の下からそっと手を忍ばせる。
「…冷たい」
「大丈夫、すぐあったかくなるから」
そう言ってゆっくりと
キッチンの壁に押し寄せられ
彼の顔が近づいた。
目をつむると
またいつもの感情が押し寄せる。
雅紀くんと思いが通じて
友達から恋人になって
こうして触れてくれて
嬉しいはずなのに
幸せなはずなのに。
雅紀くんとの思い出を
振り返ると必ず
ほんのり切ない。
あなたの暖かい太陽のような笑顔も
優しい甘い言葉も
ギュッと胸を締め付けるような
何かが引っ掛かって取れないような
そんな気持ちになってしまうのは
これが
誰にも言えない恋だから。