第2章 red
そしてそれは彼も知っているはず。
私にとって明日が
どれだけ大切な日なのかを。
なのに
家に着くといつもと変わらない、
なんなら
いつもより気をつかっていない彼が
「おっかえりー」と一言だけくれた。
ただいま、と言って
コートを脱いだ私に視線もくれず
イヤホンをつけたまま
「ロシア語」と書かれた本に夢中で。
彼も散々言われたあの言葉を
くれるかと思いきや
その素振りも見せないこの方に
なんだか拍子抜け。
別に励ましてほしいわけではない、
ただなんとなく、
勝負の前日に疲れてしまって。
スーツ姿のまま、
彼の座るソファーの隣に腰かけ
頭を彼の肩へと倒した。