第2章 red
イヤホンをつけたままの彼が突然
「簡単だよなあ、」と呟く。
「…え?」
「頑張れ、って
ありがた迷惑な話でさ」
パタンと本を閉じ、
イヤホンを片方ずつ外していく彼が
言葉を続ける。
「頑張ってる奴に頑張れ、って
これ以上何を頑張れって言うんだよって」
「………」
「でもそれ以外に言葉が見つからなくて」
「………」
「結局俺も頑張れ、
って言っちゃうんだよなあ」
「………」
「…ちゃんは頑張ってたよ、」
「……、」
「だから、明日は自信だけ持って行って」
「……っ、」
「…緊張したら、翔くーん、て
叫んでいいから」
さっきまで真面目なトーンで
真面目な顔をしていたのに
途端にふざけたふりして。
「…っ、で、きない、よ…っ」
子供のように駄々をこねる私に
ふふ、と笑って頭をゆっくりと
撫で始めた。
「…じゃあ電話してよ、
とびきりのヤツで笑わせるから」
自信あり気な彼が
優しく微笑むと張り詰めた糸が
勢いよく切れて。
「…ふ、しょっ、…おくぉん…っ」
泣きじゃくる私に
はいはい、と笑いながら抱きしめて
優しく頭を撫でた彼。
本当は
不安で押し潰されそうだった、
そんな私に優しい言葉をかけてくれたのは
やっぱり傍にいてくれるあなたで。
重くのし掛かっていたはずの
「頑張れ」の言葉も
あなたが言えばこんなにも
暖かい言葉に変わる。
まるで言葉に羽が生えたかのように
軽く、フワッと包み込んで。
END.
「とびきりのヤツって、なに?」
「アントキノイノキのマネ」
「えー」
「えー、じゃないよ」