第1章 『言ったもん勝ち』
「れん? 今日はどこが悪かった? 滑り方の所為かな?」
「まだ新しいから馴染んでいないだけです。使い込めば違和感も無くなりますし、ビスの強さも落ちつくでしょう。違和感はありますか?」
「あるよ! 君が、どうしてユウリと仲がいいのか気になって、違和感だらけ」
どこですか? と顔を上げたれんの鼻の先。すぐそこにヴィクトルの笑顔。
カッと熱くなった顔を下に向け、落ちつくためにブレードへ指を滑らせる。
「いたっ」
研ぎたてのエッジ。不用意に指の腹を滑らせれば、切れる事は間違いない。
案の定ぱっくりと切れた指の腹からは、ぷっくりと赤い血が顔を見せる。
「あ。れんさん、大丈夫?指、貸して」
「か、勝生さん!?」
ぐい。とヴィクトルを押しのけ手を伸ばしてきた勇利。
れんの手を取り、ぷくぷくと大きくなっていく血の玉を、彼女の指ごと自分の口でくわえこんだ。
「勝生さん! 汚いですから!」
「ふぇーきふぇーき」
「ユウリィ……余計なばい菌が入るだろう? 放しなさい。れん、水を掛けよう、消毒だよ!」
れんの腕はまたも引かれ、勇利から離された。
とぽとぽ。とペットボトルの水を指に掛けられ、まだ使っていないタオルで拭かれる。
「んー。まだ足りないかな?」
ヴィクトルはそう言って、チュ。と彼女のけがをした左の人差し指にキスをする。
「はい。治った。これで大丈夫」
「だ! 大丈夫じゃない! ニキフォロフさんの所為です!」
二人とも、離れていてください! 仕事の邪魔です!
ばしばしと二人の背中を叩いて傍から追い出す。