第1章 『言ったもん勝ち』
「ユウリの所為だよ?」
「ヴィクトルが変なこと聞くから。……ヴィクトルには、そう見えた?」
「……そうじゃない。君に分からせようと思ったんだ。仲は良くありません、ってれんに言って貰うために」
「残念。この間二人でご飯を食べに行ったんだ。楽しそうだったなぁ」
「ふぅん。ごはんなら何度もあるよ」
「ショッピングもしたんだ」
「買い物くらい普通さ」
「れんさんが飼っているワンちゃんも見せてもらったんだ」
「え? 犬飼ってるの?」
「……さあ?」
二人が小さな争いを繰り返している間に、れんの作業は終わり。
仕事道具をさっさと片付け、二人の靴にはアドバイスを書いたメモを張り、靴だけを残してリンクを後にする。
そそくさと逃げるようにリンクを出て、今日の滞在先へ向かって歩く。
「れん! 待って!」
振り返らずとも分かる。
「ニキフォロフさん。なにか不備でもありましたか?」
「不備だらけさ! 今日のごはんの約束」
「あぁ……」
ヴィクトルは少しだけ重そうにしているれんの荷物を取り上げ、空いた彼女の手を握る。
「嫌?」
いたずらっ子のように彼女の顔を覗き込んでそう聞く。
「へ?! い、いや……じゃないです」
「ふふ。嬉しい。ねぇ、れん? もう長い付き合いなんだから、ヴィクトルって呼んでよ」
「で、でも……」
「お客さん、止めよう? パートナーなら、君もニキフォロフになるから」
キョトンと彼の顔を見上げるしかない。
「そうなったら、ファミリーネームで呼ぶのはおかしいよね?」
この後めちゃくちゃ……(い、言えない)
・・・