• テキストサイズ

88リクエスト集

第5章 『風邪』




 夕食は外で食べてきてほしい。と大佐に言われた。この家には大人数をもてなすような準備は整っていないから、と。
 アルフォンスと共に少し街をぶらついて、夕食を済ませ遅くなる前に帰って来た。
 食卓で、新聞を広げ行儀悪く出来合いの夕食を食べている大佐。ちょっと見慣れないなと思ったのは、大佐の私服姿の所為だ。

「ビーネは?」
「今夕食を食べているはずだが。二人の部屋はビーネの部屋の隣だ。風呂は自由に。私はもう済ませた」
「サンキュー」

 じゃあ僕らは部屋に居ます。と大佐に告げ、荷物を持って借りた部屋へ引き上げる。
 アルフォンスは鎧の音をたてないように注意して歩く。

「兄さん。お風呂入ってきなよ、僕、昨日汚れちゃった体拭いてるから」
「おう」

 確かにさっさと風呂には入りたかった。
 雨に降られたまんまで、体中汚れている気はしていたし、流石の俺でも旅の疲れも、気疲れも溜まっていた。
 久しぶりの広い風呂。昔の事を思い出しそうになる。
 無心で身体をあらって、湯につかって体を温めて、丁寧に機械鎧を拭いて風呂を上がる。
 ビーネは寝てしまっただろうか、覗いてみようかとビーネの部屋の前で足を止めた。

「……だいぶ楽になった」
「明日、元気になっても一日様子を見たほうがよさそうだな」

 ビーネと大佐の声が聞こえる。
 俺はそっとドアノブから手を放し、扉の前で盗み聞き。

「どうしてそんな無理をした」
「東方に帰るの久しぶりだったし、早く帰った方がゆっくりみんなに会えるかと思って」
「連絡を寄こせば迎えに行ったものを」
「それは、そうだけど」

 俺が扉の前に居ることなんて二人は知らない。
 気の抜けたビーネの少し低い声、仕事をしている時には絶対に聞かない大佐の優しい声。
 ビーネにとっては安心できる空間なのだろう、肩肘張って、軍人、監査である自分ではなく、本当のビーネとして居られる空間。
 俺には作ることのできない空間。

「熱なんか久しぶりだよ」
「中央のヒューズの家に行った時以来か?」
「いや、エリシアに風邪をうつされた時以来。3年前か。家族全員で倒れた」
「はは。ヒューズも倒れたか」
「父さんが一番長引いたよ」

/ 36ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp