第5章 『風邪』
夕食は外で食べてきてほしい。と大佐に言われた。この家には大人数をもてなすような準備は整っていないから、と。
アルフォンスと共に少し街をぶらついて、夕食を済ませ遅くなる前に帰って来た。
食卓で、新聞を広げ行儀悪く出来合いの夕食を食べている大佐。ちょっと見慣れないなと思ったのは、大佐の私服姿の所為だ。
「ビーネは?」
「今夕食を食べているはずだが。二人の部屋はビーネの部屋の隣だ。風呂は自由に。私はもう済ませた」
「サンキュー」
じゃあ僕らは部屋に居ます。と大佐に告げ、荷物を持って借りた部屋へ引き上げる。
アルフォンスは鎧の音をたてないように注意して歩く。
「兄さん。お風呂入ってきなよ、僕、昨日汚れちゃった体拭いてるから」
「おう」
確かにさっさと風呂には入りたかった。
雨に降られたまんまで、体中汚れている気はしていたし、流石の俺でも旅の疲れも、気疲れも溜まっていた。
久しぶりの広い風呂。昔の事を思い出しそうになる。
無心で身体をあらって、湯につかって体を温めて、丁寧に機械鎧を拭いて風呂を上がる。
ビーネは寝てしまっただろうか、覗いてみようかとビーネの部屋の前で足を止めた。
「……だいぶ楽になった」
「明日、元気になっても一日様子を見たほうがよさそうだな」
ビーネと大佐の声が聞こえる。
俺はそっとドアノブから手を放し、扉の前で盗み聞き。
「どうしてそんな無理をした」
「東方に帰るの久しぶりだったし、早く帰った方がゆっくりみんなに会えるかと思って」
「連絡を寄こせば迎えに行ったものを」
「それは、そうだけど」
俺が扉の前に居ることなんて二人は知らない。
気の抜けたビーネの少し低い声、仕事をしている時には絶対に聞かない大佐の優しい声。
ビーネにとっては安心できる空間なのだろう、肩肘張って、軍人、監査である自分ではなく、本当のビーネとして居られる空間。
俺には作ることのできない空間。
「熱なんか久しぶりだよ」
「中央のヒューズの家に行った時以来か?」
「いや、エリシアに風邪をうつされた時以来。3年前か。家族全員で倒れた」
「はは。ヒューズも倒れたか」
「父さんが一番長引いたよ」