第5章 『風邪』
「付いたぞ。ハニーいつもの客間だ。一人で行けるか?」
「うん」
車から降りるとふらつき、とっさにどこかへ手を伸ばす。
その手を掴んだのは俺でも、アルフォンスでもなかった。
「ベッドまでは頑張ってくれ」
随分良い家に住んでいるんだな。なんてからかうことすら気力が無くて、俺たちは静かに二人の後に付いて中に入る。
「鋼の。ハニーの荷物を」
「あ、おう」
ビーネの荷物ったって、トランク一個だ。
アルは大佐の家のリビングを興味深そうに眺めている、一緒に付いてくる気はなさそうだ。
廊下を少し歩き、開いた扉の部屋を覗き込む。
大佐のコートを着せられていたビーネは、楽にするため上着を脱ぎ、シャツのボタンをはずしにかかっていた。
「大佐、ビーネの鞄」
あぁ。と短く返事をして俺から鞄を受け取ると、ベッドに置き、勝手に開け始めた。
「どれを着る?」
「黒のTシャツ」
「食べたいものはあるか」
「ない」
ビーネの指定した黒のTシャツを迷うことなく取り出し、手渡す。
脱いだ服も受け取って、部屋にあるイスの背に掛ける。
そこに他人の俺が入り込む隙なんて無くて、ビーネと大佐の親戚のような関係がうかがえてしまって、静かに部屋を後にするほかなかった。
「あ、兄さん。ビーネの様子は?」
「辛そうだったよ。寝たら少しは良くなるだろうな」
「そっか」