第5章 『風邪』
「熱?」
「みたいですよ。今は医務室で眠っています」
「ふむ、困ったな」
ビーネとアルフォンスと共に久しぶりに東方司令部に遊びに来たが、長旅の疲れが出たのか、昨日雨に打たれたのがいけなかったのか、ビーネが体調を崩した。
軟だな。とからかって医務室へ向かう背中を見送ったが、案外状態は悪いようだった。
「鋼の。どうしてハニーに無茶をさせた」
「無茶なんかさせてねぇよ。昨日は雨に降られちまって、大変だったけど」
「……長旅の疲れもあったのではないかね?」
言い返せない。
夜行列車に乗って東方司令部へ行こう。と決めたのはほかでもないビーネだが、中途半端な時間で駅近くの町に付いてしまったため、ちょっと無理して歩こう。と提案したのは俺だ。
おかげで一日早くここへ着いたが、その分ビーネに無理をさせてしまっていたようだった。
「どうします? 大佐」
「仕方ない。私の家で看病しよう。ハボック、正面に車を回してくれ」
「おいーっす」
もう少し怒られるのかと思ったが、あっさりと話題をビーネに移され拍子抜け。
それだけ大佐はビーネの事を心配していると言うことなのだろう。
アルフォンスは立ち上がり、手伝います。と大佐たちと部屋を出て行った。
俺も立ちあがってビーネのところへ行かなければ。しかし、ビーネに無理をさせてしまった罪悪感からか、なかなか腰が上がらない。
「おぅい、大将。ビーネを泊めるついでで、お前たちも大佐の家に泊めてくれるってよ」
「え、良いのか?」
「大佐が良いってんだ。良いんだろうよ」
ひょっこりと顔をのぞかせたブレダさんのおかげで立ち上がり、彼に促されて、正面玄関へ向かう。
「鋼の。早く乗りたまえ」
「兄さん、僕の肩じゃかわいそうだから、ビーネに肩を貸してあげて」
運転席には大佐。俺は右後方から乗り込み、中央に座っていたビーネに肩を貸す。
「わるい」
「……いや、俺の方こそ」
重たげな呼吸を繰り返すビーネ。徹夜明けのように腫れぼったい眼はほとんど閉じかけている。
どれくらい熱があるのかと確かめようと右手をビーネの額に当てたが、ビーネの熱が伝わってくることはなく、気持ちいい。と小さくつぶやかれただけだった。