第4章 『温泉』
「忘れておったわけじゃないが、サメはどうした?」
「え? あぁ、ちゃんと言って来ましたよ。もふもふの友人と温泉へ行くって。天狐さんは? えぇと、バン、バンビ。違うな、シカ…シカマ? バンビ丸さんは?」
「シカマル」
「あ、そうそう。シカマルさん」
「むろん、今日は友人と湯へ行くと伝えてはきたが、終始疑わしい視線を寄こして来ておった」
ザプ。と誰もいないことをいいことに、天狐はまるで水遊び。湯に潜る。
牡蠣殻は天狐が顔を出すのを待って、口を開く。
「天狐さんが浮気でもするってんですかね?」
「ふん。毎日女と仕事をしておるあっちの方が怪しいだろうにの」
ぴっぴ! と耳を強く動かし水を払う。
「でもまぁ。彼、あなたにぞっこんじゃぁ?」
「うっくっく。こそばゆいもんじゃのぅ? 蚊帳の外からかように言われると」
「おや、隠しているつもりだったんですか?」
「いんや? 見せつけて、唾を付けて、咬み跡まで付けておかぬと、人はどこでも盛ると聞いたが?」
「うぅん……誰から聞いたんです?」
「えーと。長い白髪で、赤い線が顔にあって、蛙を連れとった」
「……誰ですかね」
「さぁ?」
ザパ! と二人、湯から身体を出して岩場に腰を掛け、足先だけを湯に浸す。
「人間らしいと言えばシカマルじゃが、牡蠣殻のところの魚の人は獣に似たにおいがするの」
「けもの、ですか。案外間違いじゃないかもしれないですね。ふむ、鮫と名前にあるのに獣と称される。これいかに」
「いかもたこもないじゃろ。時期の雄じゃ」
「……時期って、一応聞きますけど、どの時期です?」
「盛りの時期」
「私が言うのもなんですが。天狐さん。もう少し女性としての恥じらいとか、遠慮とかありません?」
「牡蠣殻相手に必要だと思うか?」
「いえ、まぁ。無いです」