第4章 『温泉』
※会話文多め
カポーン。
この音で伝わっただろうか。
そう、ここは湯屋。
湯治、休暇、不倫……まぁ、ここへ来る理由は様々、ここへ来る人も様々。
「私はあまりお風呂が好きじゃないが、こうも広いとまた違う」
「そうでしょう? ほら、来て良かったじゃないですか」
奇妙奇天烈摩訶不思議。
大きな天然岩と、申し訳程度の背の低い木々、その向こうは自然の味を欠く竹の塀。要は露天風呂だ。
ばちゃばちゃ。とそれほど深くない天然温泉につかっている、つかっていると言うには子供のようにはしゃぎ過ぎの、頭にとがった獣耳を生やした女。
まさか飾りかと思う女の頭、しかしその細く滑らかな女体の臀部にはどう見ても作り物とは思えない、自由自在に動く先の白い黒い尾。今は湯に濡れてしゅっと細くなっている。
「温泉には色々効能があって、肌艶も良くなりますし、毛にも良いんじゃないですか?」
「ほほう。それは嬉しい」
頭に獣耳、尻に尻尾の女と一緒に湯につかるのは、頭に髷を一つ結い、華奢なメガネの細身の女。
「のう、牡蠣殻」
獣耳の女は髷の女へそう呼びかける。牡蠣殻というらしい。
「なんです、天狐さん」
牡蠣殻は獣耳の女へそう答える。天狐というらしい。