第1章 甘く香る(赤司)
「うん。ちょっと読みたい本があって」
言いながら本を閉じた。
栞を挟むことを忘れずに、閉じたばかりの分厚い本を机の上に置いて鞄の中を漁った。
渡すことが癖付いてから持ち歩くようになったのは、綺麗に洗濯された真っ白なフェイスタオル。
部員は皆持参しているものだが、自分も持ち歩くようになった。
それというのも、こういった時のためだ。
赤司を出迎える度に自分のタオルを差し出す。
汗を吸収した布よりも、新しいタオルを使った方が拭った時の気持ちが良い、とは個人的な意見だが、礼を言って毎度受け取ってくれる赤司が何も言わないのできっとその通りなのだと思うことにする。
残念ながら今日は意図せず立ち寄っただけなので持参したタオルは白と異なる。
キャラクターのイラストがプリントされた可愛らしいミニタオルしか持っていない。
ないよりは良いかと漁った鞄の中から取り出して、何時もの如く差し出した。
「これ、よかったら使って」
私と同じく、きっと癖になっている赤司がタオルを受け取る際に躊躇うことはない。
けれど今回に限り一瞬の間を置いてから手に取った彼は、微かに笑みを零した。
随分と可愛らしい。笑みと共に零した声は何だか穏やかなものに聞こえて、釣られて私も笑顔となったのは自然なこと。
ありがとうと言って受け取った赤司にキャラクターものはあまり似合わなくて、笑いが込み上げてきたのも原因だ。
次からはキャラクター生地を織り交ぜていくのも良いかもしれない。
普段からクールな印象の強い赤司が途端に可愛らしく見えるギャップに和む。