第4章 04
彼女がキッチンに立つようになったのは私の母親と出会い仲良くなってからだと聞いている。
よって身分も手伝い幼馴染みの家には専属シェフが雇われていた。
コンビニとは比べものにならない食事が容易に浮かぶ。
私を心配してのことであれば家に招待してくれれば良いものを、なんて皮肉の一つくらい言わせてほしい。
可愛げがない自覚はあるけれど、何か言わないと心がささくれそうだった。
「俺の家よりも、ここがいい」
可愛くない嫌味を言ったと彼も分かっているだろうに、恥ずかしげもなく言って退ける幼馴染みに何も言い返せなくなって口を噤む。
慣れた自分の家よりも私の住む家の方が良いと言われてしまっては他に言葉が出なかった。
そんなの、嬉しいに決まっている。
口を噤んだまま黙って対面するように着席した。
目の前には彼が選んだコンビニで買ってきた弁当。
馬鹿な人だと思いつつも、悪い気はしなかった。
どんな豪華な食事よりも愛おしく感じてしまうのだから私も単純だ。
「食べるより先に、シャワーでも浴びてきたら?」
私を心配してくれるのは有難いが彼の格好は未だ部活帰りのまま。
ジャージの上着は脱いだようだが練習着だって汗に濡れただろう。
一度身体を綺麗にしてから食事を摂ったって遅くない。
彼が私を心配してくれるように、私も彼を心配している。
何も私に合わせる必要だって幼馴染みにはないのだ。
気持ちを忘れようと画策してはいても特別な感情が揺らぐことは一度だってありはしない。
「いや、あとでいい」
汗でべたつく身体は気持ち悪いだろうに良いのだろうか。
つい気持ちが視線に乗ってしまったらしい。
紅をじっと見つめていたことに視線が絡むまで気付かなかった。