第12章 真昼の月 真夜中の太陽
【サイレンス】
ー櫻井sideー
俺以外、誰も存在しない家
一切の生活音が響かない空間は……
まるで無音映画でも見ているみたいで、
全てがモノクロの世界のように、
色がない……
椅子に座ったまま、瞳だけで周りを見渡す
一体、いつ頃まで……、この家には温度があったんだろうか
いつか見たアルバムには
優しく笑う父に抱かれた、まだ赤ん坊の俺がいた
隣には、幸せそうに笑う母の姿
………いつから、この光景は色褪せたのか
それともそれは、
嘘で固めただけの幻想に過ぎなかったのか……
埃臭い母の部屋
しばらく換気してなかった事に気付く
家政婦にも、この部屋は立ち入らせなかった
幼稚だと……
いい歳して、呆れられるかも知れない
それでも、
母と一緒に過ごした時間が……、思い出が詰まったこの部屋は、
誰にも、壊して欲しくなかった
だから……
それを終わりにするのは
当然、
俺ら、……だよね
"ガチャガチャ……"
鍵穴に差し込まれるそれは……
母が亡くなってからは、
俺と……
あなたしか、
持ってない
ギシギシと、鈍く軋む床の音に
近付く気配が大きくなる
開いたままのドアに、
呼び出したその人物が、姿を見せた
口元で笑ってみせると
"始まり"のセリフを口にする
「お帰り……。
………父さん」
母が笑顔で写る写真立てを静かに伏せ……
側に置いてたナイフを手に取った
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