第8章 僕達の失敗
【鏡の中の自分】
-雅紀side-
ウチのアパートから離れた、人通りの少ない裏道
目深に被った帽子から覗いた視界に、
いつもの黒いワンボックスカーが停まった
店まで自転車で行ける距離ではないから、
送迎して貰うのは仕方ないけど
いつも、ドアを開け乗り込む瞬間は
‥‥やっぱり緊張した
仕事内容はもちろん
もしも誰かに見られたら‥‥
嘘がすぐ顔に出るなんて言われるのに、上手くごまかす自信なんてないよ
ジャケットのポケットに手を突っ込んだまま
相変わらず届く茶封筒を握り締めた
新聞配達だけは、辞めずに続けてるけど‥‥
夕方からの酒屋のバイトは、この仕事とじゃ、両立出来ない
もしも、それがバレたとしても‥‥
上手く言い訳出来るかな
早く、もっと稼がなきゃ
ニノが俺のコトを気にしないでいいように
早く、早く、どうにかしなきゃ
車の揺れに思わずウトウトしてしまう
この仕事を始めて、睡眠時間が前にも増して少なくなった
だけど、ホントの所
寝れなくなったんだ
俺が、あったかい布団で夢でも見てる頃
ニノが無理矢理抱かれてるんじゃないかって‥‥
ニノは寝ずに、
俺のために稼いでるんだって‥‥
寝ちゃいけない
寝ちゃ‥‥ダメだって
両頬をパンっと叩いて、窓を少し開けた
肌寒い風が眠気覚ましに丁度いい
俺が、頑張らなくちゃ
「お願いします」
店に着いてすぐ、
私服のまま 副主任に頭を下げた
「早く、ニノを辞めさせて下さい。俺が代わりに何でもやるんで!」
「お前はユウさん以外まだ‥‥」
「もっと稼ぎたいんです」
「…….」
「ユウさんは俺の事気遣ってくれてただけなんで、もういいんです」
スーツに着替え、ネクタイを締めた
鏡に写る俺は‥‥ やっぱりぎこちない
大丈夫
大丈夫だよ
俺だって、ユウさんに教わって来たんだ
「マサキ、指名だぞ」
開いたドアから、黒服が俺を呼んだ
「…ハイ」
ゴクッと乾いた唾を飲んで‥‥
立ち上がり、控え室を後にした
・