第1章 はじまりの日
物語の舞台の国「サイファ」は超が付くほどの絶対王政。
国王には一人息子である「アレク」が居り、次期国王となるのは暗黙の了解だった。
アレクは今年24歳となり、もう立派な大人。
国王になって王妃になる婚約相手の女性は既に決まっていた。しかし、その女性イナベルに対してアレクは苛立ちを隠せずにむしゃくしゃしていた。
この婚約自体、国と国を繋げる形だけの婚約であり、少なくともアレクがイナベルに対する恋だの愛だのはこれっぽっちもなかったのだ。
「くそ!何が『記念日なのにアナタは何も用意してくれないのね。本当に最低な人ね。』だし!しかも、その記念日ってやつ『初めて私達があった日よ。』って何なんだよ。そんなどうでもいい事、いちいち覚えているわけないだろ!」
そんな事を言いながら、屋敷にある花瓶を蹴飛ばして割ってしまった。割れた花瓶から水が溢れ、破片が散乱する。
その姿は、まるで悪党。
スーツをきちんときていれば、黒髪短髪ですらっとした高い身長が皇子そのものだが、今は着崩しておりまるで取立屋。
「あー!こんなに素敵な薔薇がかわいそうな姿になっちゃって…。花瓶はダメだけど薔薇は新しい花瓶に移せばまだ枯れないよね。」
アレクが花瓶を蹴飛ばして少し歩いた所で、後ろから聞こえた声に後ろ髪を引かれて足を止めた。
振り向くとそこには、名前は知らないがメイドの姿があった。水溜りができているのにも関わらず床にしゃがみこんでいる。
金髪の長い髪に白い肌。右目は青、左目は緑色のオッドアイ。明らかにこの国生まれの娘ではない事は一目で気づく。
「あいつでいいや。」
アレクは口元を緩めてメイドに近づく。