第4章 導きの星は誰を照らす
「もう寝たの??」「・・・ええ、ぐっすりと」
「やっぱり、母御の傍だと安心するのかな?旅の間はずっと寝れないでいたのよ」「・・・・。」
幼い我子を単身、他国に送るなど、良識ある親ならばきっとしないだろう・・・でも、
「それに、・・・・あんたが何であんなこと願ったのか・・・。」「・・・・・・。」「・・・・後悔しない?」
「後悔だなんて・・・。」
何度も願った。このまま親子二人、遠いこの国で二人で過ごせたならどんなに良いか・・・でも、
「そこまで言うなら・・どうして」「とてもじゃないけど、それだけは嘘が付けなかった」
その覚悟があるならとこの薬師は言った残酷だが、あの子の未来を考えればそうするべきだった。でも、それでも
「あの子はあの人が残してくれた唯一のもので・・・何もかも失った私の、たった一人の・・・たった一つの・・・」
涙が溢れてくる・・・
「・・・ごめん。でも、本当にいいのね・・・。」
「子は、いつかは親元を離れるもの・・・産み落とした時に天に誓ったの、『いるべき場所に必ず・・・』と、あの子に恨まれようと、あの子が幸せでいてくれる場所に・・・一人で生きていけるその日まで、私の持ちうる限りの愛情を注いで育てるって」
何度、自分の選択を嘆いた?不確かなものに願い、不確かな約束に縛られる愚かな人生。
しかし、あの日、生死の狭間を揺蕩っていた私にとって生むことが奇跡そのものだった。今更、覆すことは許されない。
「白い狼の呪い・・・ね」
古くから伝わるもう一つの伝説。
白い狼に願えばその願いは成就する。一番大切なものを除いて・・・願いは何かと犠牲にして
犠牲にすべきものはもう決まっていた。
「嘆くことを神は咎とは言わないだろう。今は夜の帳がすべてを覆っている・・・だから、」
そう言って、薬師は濡れた布を私にかぶせた、冷たい感覚、しかし撫でられる手は暖かく、目から溢れる涙が熱い
「いまは、自分の一番の願いを・・・」
体をきつく抱きしめられる、締め付けられるような感覚は愛しい人を思い出す。
会う事の許されない、会えない人・・・でもあいたい
唯、一目だけでも、あちらに見てもらえなくてもいい。
「・・っ!・・ゼノ様っ・・・・っ・・・」
濡れた布に覆われていた髪は夜よりも暗い鴉の羽色だった。