第4章 導きの星は誰を照らす
「何じゃい、あんたら。畑を嫁に任せて、子供イジメか?」
朗々とした声を耳にしおじさん達は悪さをし見つかった子供の様に背筋が伸びる。
「げっ!?ババ様!!?」年は100を超えると言われている村の最年長の婆様は、矍鑠としたご老人でこの国の古くからある民族の一人で、国に伝わる物語や他国の物語もいくつも知っている為、村の数少ない子供の世話を何かと焼いてくれた。
「・・・ひっ!?」振り返ると恐怖が体を襲った。
白銀の髪に、金茶色の瞳を剣呑とさせ顔に刻まれたシワを増やし俺達を睨みつけていた婆様・・・しかし、ルプスが怯えたのは老婆にではなく、彼女の周りにいる無数の狼にであった。
狼は此方を見て唸り声を上げている。今にも飛びかかってきそうだ。後ずさりをすると
「ルプスっ!!」婆様から叱責が飛んでくる。
「狼は森の守り神にして、わしらアルス国の偉大なる祖先。
古くから共に生き、森を育んできたこの村の友垣だと何度ゆうたら分かるんじゃ?」「で、でも俺・・・」「黙りや!おそれを捨てよとは言わん、じゃが過度な恐怖は身を滅ぼす。わかるじゃろ?」
厳しい言葉の中にある優しさに頷くと破顔して狼を少しだけ退かせ手招きした。喜んで駆け寄ると節くれだった身体に強く抱かれる干し草の香りに懐かしさを覚える。仕事で忙しい母と村に滅多に帰らない薬師様の代わりに僕の面倒を見てくれたのはいつも婆様だった。母の次に僕の近くにいる人だった。
「全く、ウチにいる狼が怖くて、このババに旅立ちの挨拶をせずに行きよってからに」「ごめんなさい。レグルス用の呼び笛と狼の牙のお守りをありがとう。」「あぁ、良いとも。あれが無ければ帰るのに難儀した事だろうて。お守りについてはこいつらに礼をせい 生え替わりでもないのに引っこ抜いちまったのは、お前がこいつらに森で追いかけ回された時以来だな。」
若干、狼達は怯えた様にババから離れる。
「うわぁ〜〜」
俺も引き気味になりながらも狼達にお礼を言うと森へと向かっていく。「さぁ、あんこらが気ぃきかせて、森に行ってくれた。ババにも話を聞かせぃ」「・・・うん!」
ババ様の細く節くれだった大きな手は優しく僕の手を覆った。