第3章 里帰り
こうして、この森に入るのはもうずいぶん昔の様な気がする。光がなかなか差し込まない森は薄暗いがどこか神秘的だった。
毎日、夕方近くまでこの森で遊んだ。夕暮れ近くになるとこの白い綺麗な馬はいつも時間を告げるように迎えに来てくれた。
それが無性に気に入らなくて、一度だけ追い返して夜の森を探検したことがあった。うっそうと茂る森は夜になると不気味なほど静かで物音ひとつしなかった。
怖くなって、がむしゃらに走ると、来た道が判らなくなった・・今まで何度も歩いた場所なのに、怖くなって怖くなって、ひたすら走って、転んで・・・痛みと恐怖で泣いた。
蹲っていた時に不気味な遠吠えを聞いたのを今でも覚えている。
真っ暗な森の中、闇に光る無数の黄金の目がこちらを咎めるように見ている。
息が出来なくなりそうだった。
―――――・・ひっ・・・た・・て・は、・・ま・・っ!
祈る様に呟くと目の前に光が差し込んだ降り注ぐ、新雪を集めたような白銀の毛並と黄金の目、余りに神々しく美しい白狼。こちらを見つめる目は静かに問いかけるように見えた。
『ごめ・・なさ・・・本、当は・・ははさまに・・・おむかえ・・・き、てほし・・・かった・・・の』
あまり体が強くなく本当は部屋で安静にしていなければいけないのに、朝早くに起きて、家の事もお仕事も夜遅くまで僕の為に働いている母。寂しくて仕方なかったのだ。構ってほしかった・・・。ちゃんと休んでほしかった
ほんの悪戯心だった・・・。
『ごめん・・・なさい・・・め・・んなさ・・』
譫言の様に呟くと白い狼は一度だけ僕の頬に鼻先を寄せた。
――――っルプス!!?
慌てた母の声を聴いたのは少し湿った物を頬に感じたのと同時だった。目の前には泣きはらした母と松明を持った大人達がいた。白い狼も周りにいたはずの狼もいつのまにかいなかった。
『どうしてっ・・こんなに遅くまで・・夜の森には入っちゃ駄目って・・・』真っ白な綺麗な髪にはこの葉がいっぱい付いていた金色の目からはいっぱい涙が零れた綺麗な白い頬には切り傷だらけたくさん探してくれてたのだと一目で解った。
『ごめ・・・ははさま・・さみ、しくて・・』
たどたどしく、今まで堪えていたものを涙と一緒に吐き出した。『ううん、私こそごめんね』
母は唯、抱きしめてくれた・・・。