第3章 里帰り
「と、まぁ紹介はそんな感じです。アルスの王族は『森』に古くからいた住民で、砂しかなかった極西の大地を潤し、住む糧を与えた偉大なる祖先として古くから崇め祀られていて、『森』から王都に遷った今でもその風潮は変わりません。」「『森』というのは貴方の村のある『迷いの森』のことですか?」
ウィスタリアの西の領地から極西まで続く深い森。プリンセスの行方を知る最後の森。アルス国は深い森に囲まれた国だが、『森』と国民が名称を使うのはその『迷いの森』だけだった。
「えぇ、でも住民以外があの森抜けられるとは思えません。だから『迷いの森』と言われてるんです。薬師様も来た当初は隣国経由の正規ルート使ったって言ってましたし」
正規ルートは森に入らず隣国からアルスに文を出してもらい、査定を受けアルスの大使に迎えに来てもらう。
「ややこしいと言われますが、それだけあの森は危険です。方向感覚は日を追うごとに不明瞭になるし、夜は鴉さえ飛ばないくらい真っ暗、食料となる木の実は群生してますけど毒物も多い・・・何より真夜中に狼が出没する。大の大人だって恐怖を覚えます。
深窓のプリンセスが森を抜けるのはほぼ皆無です。」
「だけど、ルプス。君の母君は他国からの移民だと聞いた・・・。」
「仮に、母がプリンセスだとしたなら・・・・・俺はあんたらを一生許さない・・・。」
低く地を這うような声が執務室に響く。
「大人だって夜の森には入ったりしない。まして何日も森を彷徨うなんて正気の沙汰じゃないと・・・・過去に極刑で罪人を森に閉じ込め彷徨わせたこともあります。罪人はけして帰ってきませんでした。それほどに恐れられている森です。」
体が弱く、薬師の薬がなければ日々の暮らしすらままならぬ優しく美しい母・・・か弱い自分の母が森を抜けてこの国に来たとは考えられない・・・。
絵画のプリンセスとも容姿は似ても似つかなかったからこの国のプリンセスではないと思って安堵したほどだ。
「国の調査に向かう際はぜひ、探りを入れませんように・・・。」
それだけ伝え、今日の業務を終了したと判断しその場を辞した。