第3章 里帰り
「おふくろ、大丈夫か?」「えぇ少しだけ取り乱したけれど。もう」最愛の人の母は息子にそう答えるもけして顔色は良いとはいえない。
「ご婦人具合が悪いようなら城の客室を使ってください。」
「お気遣いありがとうございます。でも、とてもじゃないけれど城では・・・、」青白い顔に笑みをうっすらと浮かべるその微笑みは愛しい妻とよく似ていた。彼女とは違う青瞳から僅かに涙が滲む。遠い異国にいると思っていた娘は一年間ずっと近くにいた事。愛すべき国に娘を奪われたのだ心中けして穏やかではないだろう。
「シュタイン国王様、如何かいちはやく娘を見つけてください。貴方が幸せである事が娘にとっても幸せの筈です。母にとって子の幸せが一番の様に・・・。」深く頭を下げる婦人の姿はあまりに痛々しかった。孫達は気丈な祖母の弱々しい面持ちを不安そうに見上げ同じ様に頭を下げた。少し外の風に当たる様に促され、婦人は孫を連れて再び会場を離れた。
目の前に立つやや厳つい顔の男は先程の憤慨した顔を潜め少し疲れた顔をしていた。こちらを見て深い溜息を一度つき口を開く。
「妻は申しておりましたが、わたくしはとても許す事が出来ません。民を守る為の国が何故民を悲しませます?何故あの時私の娘を返して下さらなかった。娘を愛しておきながら何故手元に置かれなかった。なぜ、わたくしは娘が近くにいながら、気づきもせず助けてやれなかった。何も告げず故郷を追われ辛かったろうに、誰も頼らず苦しかったろうに・・・。」
「今は愚かな自分への悔恨と国に対する疑心だけが胸に残ります。私らのお目汚し耳汚しの言葉に僅かでも哀れと思いならば・・・。どうかこのまま退出させてください。娘の無事がわかるまではとても王城を訪ねる事も陛下達と話すことも出来ません。」
「親父、悪かった。」いつになく弱々しい息子に「・・・お前は見つかるまで帰ってくんな。嫌だろうが何だろうが王城泊まり込み寝る間をおしめ。儂は何も聞いてない。で、娘よ後を継がないとは?」「あぁ、アルスでお医者さんやってるから無理。後は兄ちゃんに任せな。顔はちゃんと見せに行くよ」「そうしろ。後継ぎは孫に頼むから、永久只働きが出来たから大丈夫だろ」
永久只働きといいながら息子を見る。
「後継ぎですらないのかよ!?つーか俺の人権は?!!」「「ねーよ。」」玉砕され粉々になる姿を見た。