第1章 序章
チリリン・・・・
扉に設置されたベルが響く
「悪いな、店はまだ開いてないんだ・・・出直して」
扉の前には小さな少年が立っていた。
土埃と血と泥で汚れた大人用の外套をまとっていた孤児の物乞いかと思う出で立ちに一瞬思ったが外套から覗く服は清潔で綺麗だった。髪も幼子特有の細いものだが光沢があるまるで夜の帳のように美しい・・・真っ黒というよりどこか紫に輝いている。
幼さの残る顔立ちは整っており深紫の目が賢そうな顔だちを際立たせていた。
さながら夜の化身といった風貌の彫刻のように美しい子供だった。
「一泊の宿を探しています。ここの人に聞けばおしえてくださるときいたのですが。」
たどたどしくもしっかりと尋ねる少年はニッコリと笑顔を浮かべていた。さながら春の陽だまりのようなそれに末の妹の幼い頃を思い出した。
「あぁ、城へ行く大通りの道に手ごろな宿がある。
しかし、お前だけか親は・・・」
「母は・・・・いません。僕だけでこの国に来ました。」
すこし言い淀む形でそう答える。
シドは何か引っかかるという顔で少年を見ていた。
「ならあの宿は入れないな・・・未成年は原則親と同伴じゃないと宿を使えないんだ。わけありならおれの家に来い。空き部屋もあるし同い年位の子供がいる。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げる礼儀正しい子供だった。白い肌に少し長い髪がするりと撫でるように流れ落ちる。
長旅をしていたとはいえほぼ傷のない手と顔。とても大事に育てられたのだろう。
「ボーズ、名は?どこから来た??子供一人でこの国に何の用だ??」
シドは少し冷たい表情でそう問いかける。よく見ると手には短刀を持っている。
「・・・・・・・。」
子供はシドを見据えゆっくりシドに近づく・・・。
そして
「っ!!!??」 「!?シド!!!?」
子供はシドの足をけり払い短刀を奪い懐から何かをまさぐり突き出す。
紙だ・・・・。
それも、
「『ウィスタリア王室専属執事の推薦状』・・・??」
王室の押印がちゃんと押されている。
しかし
「ルプスと言います。ここよりはるか西の辺境の国よりとりあえず一人で生きていけるようにこの国の執事になりに来ました。」
にっこりと邪気のない顔でそう言われた。