第3章 里帰り
訓練場にも、食堂にもなかった。だとすると残る場所はあと、ひとつだけだった。
エントランスホールのプリンセスの絵が飾られる場所。
お昼に武術大会前にあの部屋にたくさんのリースを飾った時に落としたのだ。
僕たちが作ったリースもそこに置かれている。身内びいきもあるかもしれないが自分たちの作ったリースが一番綺麗に見えて、プリンセスの絵が飾られる壁の向かいに飾った。
5枚の花弁をしてなおかつ星の形をした物をスターフラワーと呼ばれているらしく、花びらを合わせて作られたり、ブルースターなどもともと星の形をした花を使われている。
気品に満ちた紫や、清楚な白、愛らしい桃、情熱的な赤・・・。
さまざまな色の薔薇がそれぞれのリースの基調として飾られている華やかで愛らしく・・・。
そんな中黄色の薔薇のリースだけ存在しなかった。
何故かをメイドに聞くとこの国では花言葉というものを大切にしているらしく、黄薔薇には『友情』『可憐』といった意味のほかに『薄れゆく愛情』という意味があるかららしい。
明るい色合いなのに使う人がいないのはそのためだと・・。
とてももったいない気がした・・・。だから自分はこっそりリースを飾り終えて他の人たちがいなくなった真夜中に一度ここに訪れプリンセスに黄薔薇のリースを捧げた。
ドライフラワーにしても色が薄れる事のないスターチスの花を添え、黄薔薇とオレンジ色の薔薇の明るい色合いのリースを『薄れる事のない深い愛情』と『どこかで誰かが見つけてくれる』よう願いを込めて・・・。
明日の朝にはそれを回収しないといけない。だから探し物は今取りに行かなくてもいい・・・だが、もし探し物がそこになかったら?
そう思うと不安でエントランスホールに向かっていた。
そして、
「・・・・あ」
たどり着いた先には先客がいた・・・。
長身の威厳のある漆黒の服をまとった年若い男・・・。
短く切りそろえた髪は深い夜のような紫がかった黒。
片側が眼帯に覆われた髪の間から覗く深い紫の瞳は気品に満ち美しい・・・。
優雅で可憐にお辞儀をしているプリンセスの絵の前にたたずむ姿はそこだけ隔絶された世界の様に思えた。