第1章 序章
7年前、ウィスタリア城で舞踏会が開かれた。それもウィスタリア中の年頃の娘は参加するように国王陛下からの命令で・・・だ。
いやな予感がしていた。
「あの日、無理にでも引き留めておけば・・・・」
自分は男の上、意中の人とめでたく結婚し子供も生まれたばかり、双子の妹は俺と妹に家業押し付け、家出。
末の聞き分けのいい可愛い妹はそもそも舞踏会自体興味もなく不参加するといって招待状を俺に預けていた。
これで弊害なしと思い安堵していた矢先、舞踏会当日。
末の妹が舞踏会に行くと言い出したのだ。
何の冗談かと尋ねた。聞けば、教え子の母親が病に倒れしまい、落ち込んでいる。
教え子はこの間読み聞かせた童話に出てくる白い花をほしがっている。
教え子に話した童話はこの国の子供たちならば誰でも読み聞かせられる話だ。情緒のない自分ですら一言一句違えることなく読める。耳にタコができるくらい聞かせられたし読まされた。
とはいえ、童話はしょせん童話。騎士学校に入った際に一度だけ城で咲いていたあの挿絵と同じ白い花を見つけたが、病を治すことはおろか、俺のささやかな願いすら踏みにじった。
断る様に促した。手に入ったとしてそれを渡し教え子の母の病が治らなければ、教え子はもっと傷つくしお前も今より傷つく。
しかし妹は聞く耳を持たなかった。
「それでも、花を見つける機会があるのなら見つけてあげたい」
それが妹と交わした最後の言葉だった。
翌日、妹の教え子に会いに行くと『夜にこれを届けてくれた』と嬉しそうに笑っていた。真っ白できれいな憎らしい幸福の花。
妹はプリンセスに選ばれなかったのだろうそう思い安堵した。
そして昼ごろ店に戻ると、花屋を営む親父の姿。飯でも食べに来たのかと軽い挨拶をしたが
『ステラが店に来ないだ。何か知らないか』
鈍器で頭を殴られたような感覚だった。
「・・・・・・以来、俺が家業を手伝う羽目に」
もしやと思い、シドに尋ねれば帰ってきた内容は予想した通り、さすがわが妹と褒める気は一切なかった。
騎士学校時代にみてきた貴族たちの陰湿な足の引っ張り合いや庶民に対する蔑みの目吐き気がした。王家直属の騎士の推薦を殴り捨てたほどだ。
そんな伏魔殿に妹が閉じ込められた。昔のつてを頼り、城にいる妹を訪ねたこともあったが門前払いだ。