第1章 序章
ウィスタリア城にいる王の側近に報告をし終えた帰り、シドはある店へと足を踏み入れてた。
ウィスタリアの城下の一角・・・。
小さな料理屋だここで出される料理はなかなかにうまく特に揚げ物料理は酒もすすみ絶品である。
しかし、料理が目的ではなかった。
「よう、元気か」
シドはカウンターで魚をさばいている男に声をかける。
男はシドを見ると嫌そうな顔をした。
「・・・・何しにきやがった」
今にも手に持った包丁で先程見事にはらわたを取り除いた魚のように自分をさばいてやろうかという勢いだ。
「今日はこっちの方に勤めてんのか」
「こっちがもともと本職だ!!用がないなら帰れ」
「客に対して随分な挨拶じゃなねぇかソル」
「お前は客じゃない。ついでにいま開店前だ」
魚の下ごしらえを終えると包丁を洗い、研ぎ、香味野菜を刻み始める。
彼の名前はソル・クラルス
ウィスタリアで料理屋を経営している人間だった。
ゼノとは情報収集の協力者として店で雇ったり雇われたりの間柄。
持ちつ持たれつの二人はそれなりに交友を深めていたがこの6年で関係は地の底まで転落した。
「・・・・・・・・・・あいつは見つかったのか?」
手元にある食材から青い目をそらせることなくカウンター越しにいる男に尋ねた。
「いや、まだだ・・・。西のウィルゼン王国まで行ったんだが、それらしい女は」
「・・・そうか」
少し悲しげに眼を揺らめかせ、刻んだ香味野菜を煮立った鍋の中に流しいれる。
「もう六年になるな・・・。このウィスタリアのプリンセスが行方不明になって」
「俺にとっては七年だよ・・・・妹が行方不明になって」
ソルの末妹であるステラ・クラルスは七年前からこの店に訪れることがなくなった。
「だから、嫌だったんだ・・・あいつをウィスタリア城に行かせるの」
ウィスタリアのプリンセスに選ばれ、隣国の大国シュタインの国王と恋に落ち、婚約し・・・・そして、
行方不明になった・・・・。以来ずっと彼女の姿を見ていない。