第3章 里帰り
『こんなところで寝ていると、風邪を引くぞ』
少しあきれた様に低くよく通る声が耳元に響く・・・。
キィイ・・・・キィイ・・・・・
一定の間隔で揺れるロッキングチェアに腰掛けて眠ってしまっていたらしい・・・。
『・・・・・体は大丈夫なのか?』
そう言って愛しい人が私の腹部をぎこちなく撫でる。
ゆったりとしたドレスに包まれた体は、下腹部がぽっこりと出ていた。
愛しい人との間に出来た・・・新しい家族・・・。
医師からの報告を受けたあの人はすぐこちらに駆けつけてお腹をつぶさないように優しく腕に私を入れてくださった。
城に招かれるたくさんの人からの祝辞の言葉・・・。
みんなに愛される、愛する人との・・・・私の大事で大切な・・・宝物・・・。
祝福されたわが子・・・。
『・・・・・もうすぐ、会えるな』「・・・まだですよ。あ!今、動きました」
腹部を撫でる手に自分の両手を重ね、動いた箇所に触れさせる。お腹を蹴られる感覚がもう一度すると、左手をそっと掴まれ、指先に口づけられる・・・。
あぁ・・・なんて、幸せなのだろう。
そして、
なんて
残酷な夢なのだろう・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目を覚ますと、赤い夕焼けが差し込む窓辺にいた。
窓に飾られたさわやかで甘いをした花が鼻孔に入り込む。
ロッキングチェアに腰掛けた自分の腹は細く、大きなおなかの代わりに作りかけの織物が乗っていた・・・。
「ただいまぁ~・・・あれ?寝てた」「おかえりなさい・・・ちょっと、ね」
今し方帰ってきたその人は私の額に手を乗せ眉間に皺を寄せる・・・それに曖昧とも見える笑みを返すと深いため息を吐き話題を変える。
「もうすぐ、親睦セレモニーがあるんだって。隣国とのこれからの和睦を願って・・・。招待状を送って来たよ。
村のみんなに・・・」「・・・・・そう」
この村の小さな愛しい宝物が独り立ちして5ヶ月が過ぎた・・・・。真っ白なカードに書かれたちょっと丸みを帯びたきれいな字・・・・。あの子はどんな思いで書いたのだろう。それでも
「私の代わりに、行ってきてください。」私は行く訳にいかない・・・眉間に深い皺を宿した・・
「そのかわり・・・・」