第2章 考察と調査
そう思った瞬間陛下と目があった・・・。深い高貴な紫の瞳の奥に見える濡れた私の頬。泣いているのだと初めて気づいた。
私を映す陛下の顔はひどく歪んだ。怒りと憐みと哀しみと思慕の念で・・・・。
官僚の体を剣が貫くことはなかった。逃げる官僚を牢に捕える様に命じ、二人だけになった。
陛下は私の涙に濡れた頬を優しく拭い取ってくださった。
『すまない』
その言葉は今だ行方の分からぬ王妃に言ったのか。
権謀に巻き込まれた私に対していったのか。
わからなかった・・・ただ、頬に触れる陛下の指先はとても冷たくて、氷の様であった・・・・。
そうして私はシュタイン城でメイドとして働かせていただくようになった・・・。私の顔を見て憐れむもの、事情を知らず蔑む者もいれど毎日忙しく、気にする暇もなかった。
私は畏れ多くも陛下のお世話を任せられるようになったが、陛下の前に現れることはしなかった。お世話を言い渡された最初の頃、挨拶に行った日、陛下は淡く微笑んで下さった。複雑そうな笑みを浮かべ・・そんな陛下の心中を察するのはたやすかった。お目覚めの前に湯を沸かし着替えを用意し不在の間に掃除を済ませる。
官僚が蒼い顔をして執務室を出たのを目にしたあの日珍しく深く眠りについていらした。
そんな陛下の薄い唇から一言だけこぼれた言葉
『ステラ・・・・。愛している・・。』
これ以上にない位甘く、艶めかしく、そして優しく紡がれた愛の言葉。
切なげで胸を締め付けられる様な感覚に襲われる。
いまだ何の手掛かりのない王妃様の行方・・・私は毎日祈る様に城下の教会に王妃様のご帰還を願った。
その帰り道、ふと知らない店が城下に立ち並んでいたのを見かけた。素朴な花の匂いに心が緩み立ち寄ることにした。
「いらっしゃい」
どこか勝気そうな陽だまりのような笑顔で出迎えられた。