第2章 考察と調査
愛する妻の顔をした薬剤師が現れて、しばらく経った頃の事。
シュタイン城のゼノの私室を掃除するメイドがいた。
顔の半分を仮面で隠し、仮面で隠した方とは反対の顔を髪で覆ったメイドは、以前とある官僚に連れられこの城に来た。
城に入る前官僚はある場所に連れて行かれた・・・。
思い出しても悍ましい・・・。片側の皮膚がそがれ、焼かれる痛み骨格を削られる激痛。痛みから目を覚まし鏡にうつされていたのは見知らぬ美しい顔と醜い顔。記憶にある自身の顔が鏡に映し出されることはなかった。恐ろしい仕打ちに精神も肉体もボロボロにされた・・・。何故自分がこんな目に・・。
官僚はあざ笑うように言ったのだ
唯、行方不明のウィスタリアのプリンセスと髪と目の色が一緒だったから・・・と。
ウィスタリアのプリンセス。それは敬愛する我が国の国王ゼノ=ジェラルド様の最愛の王妃様
6年前行方不明になられたと噂をされてすぐ、陛下は舞踏会の際不正があったことを明らかにされ、結婚を発表された。
大勢の人の祝辞を受け取る陛下の隣には王妃の姿はなく、結婚後すぐに王妃の捜索団が結成され、見つからないまま6年の歳月が過ぎていた。
かつて誓約の儀の際、陛下の隣に立ち国民に微笑んだ美しくも可憐な姫君。思い出に残る面影にそっくりな私の顔・・。
しかし、どんなに似ていても私は王妃様ではない。敬愛する陛下の王妃はただ一人。あの方以外陛下のお心に添える人はなく心を動かしてはくださらないだろう。
むしろ、官僚はなんと愚かなのだろうと嘲笑った。この様な事をすれば忽ちにお優しくも恐ろしい陛下はお怒りになるだろう・・・愛しい人の姿を、心を、想い出を、陛下の愛情を穢したのだから
私の予想は当たった、私の顔を見た途端、陛下は家臣の制止を振り切り愚かな官僚を切伏せ様とした。滑稽だとばかり嘲笑った・・・でも、
こんな愚かなものの所為で私は顔を失った。元に戻らないだろう自分の顔、誰にも愛されないだろう。誰にも必要とされないだろう
そんな自分に何の価値があるのだろう・・・。