第6章 5章 冒頭 運命の分かれ道
「やぁ、また会ったね。随分顔色も良くなっていて安心した。」
中庭にいた先客は人好きのする笑顔で微笑む。
高貴な装いをしているにもかかわらず、少し砕けた仕草が村であった時と変わらない為親しみが宿る。
そして、その隣には。
「おおかた、君が馬鹿やって困らせていただけだろう。人様に迷惑かけるなと何度言えばわかるのか」
「はははっ、バレたか。おっと、スマンスマン。」
棘のある言い回しで優雅に茶を飲む女は涼しげな目元に剣を宿して男を見ると、相手はすぐに居住まいを正して平謝りし出す。
気怠げに座っているというのに、女は凛々しく眩しげに見えた。
「すまない。話は全て聞いた。夫が迷惑をかけたな。」
「いいえ。本当に良くしていただいたんです。それに今回の件でだって、私が無理を言って・・・こうして雇っていただきありがとうございます。」
最初は姉の元で下働きをと考えていたのだ。しかし、姉が師に口添えし、それを聞きつけた男が、
自身の妻の世話役に。
と、話を持ちかけてくれたのだ。
男はアルス国の国王であった。
会って間もないのに王城で雇って貰おうなんてムシが良すぎる。
「いや、我々にとってもけして悪い話ではない。祖国では教鞭をとっていたと聞いたし、乳母を探していたところでもあった。
それに、無事に子が生まれれば同じ年何かと刺激がある」
「あぁ、貴族連中はお高くとまっていてどうも好かん。かと言って、町人を適当に見繕っては周りが煩いし、私が街に赴くのはもっと煩い。いい人間見つけたな。」
そう言って、夫に少し微笑むとニコニコと満遍の笑みを浮かべる。
高貴な身分の人間に珍しい程に気さくな人達だ。
僅かながら緊張していて強張っていた体が解れ、細やかに笑みが零れる。
ふと、視線を感じる。目の前に座る女、王妃様からだ。
凛々しくつり上がった切れ長で深い森の様な翠の瞳がこちらをジィーと見つめている。
「あの、何でしょう?」「・・・いや、何でもない。これから倅たち共々よろしく頼む」
「はい。」
「どうしたんだい?難しい顔して」「いや、何処かで見た顔だと思って」「?あぁ、主治医の弟子と姉妹だそうだよ」
「いや、そうじゃないんだ。彼女自身にどっかで会ってる。そんな気がするんだ」